2008年05月25日

遠い記憶

 S氏が、ワインの本を上梓された。
本の帯には、「ワインを選ぶ目、差し上げます」とあり、ワインアドバイザーとしての薀蓄が、事細かに述べられている。
文芸社刊のこなれた本である。

 S氏は高山で酒屋を営みながら、詩やエッセイなどを書き、謡曲を唸り、山に登り、写真を撮り、酒を嗜み、
何事に対しても一家言を持つ一筋縄ではない人間である。

 そのS氏から、宴のご案内を頂いた。
私は、ワインの本の上梓祝いだろうと勘違いして、彼の本を握りしめ、かつ、読破して出掛けた。

   
       ■ラインの太さ、四隅の花模様、
        型でとったであろう数字部分の厚みや、白色と言い切れないベースの微妙な色味・・・
        手仕事の、魅力あるこのタイルをインド人は家のどこに貼るのだろうか。
         

遠い記憶






 店の奥座敷には、着流しで決めた彼が座っていた。
そして、持ち込みが許されたという様々なワインとそのワインを注ぐグラスの数々が並べられていた。
ワインと料理の組み合わせを力説する彼は、料理にあわせて次から次と封を切り、
その都度異なるグラスに注いだ。

メンバーは互いの関係も知らない7人。
内、二人の若者は、S氏と初対面だと言い、本の上梓のことも知らないと言う。

 「これは何なのだろう。」
この会の趣旨が読めぬまま、ソムリエナイフを動かす彼の鮮やかな手付きに見とれて、ワインを呑み続けた。
会は終焉となり、私はすっかり泥酔していた。

 昔の記憶が蘇った。
後先も考えず呑みあかし、記憶を喪失した遠い夜の記憶である。
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Posted by 宣 at 15:47│Comments(0)
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