2008年06月20日
お葉さま
友人のNは、函館に拠点を置く文学会、「海峡」の同人である。
石川啄木も所属していたという同人誌である。
「本は買って読む」を是とする私は、彼から600円で、その「海峡」を手に入れた。
今回の作品は、「清一のニワトリ」という小説であった。
早稲田大学出身の文学士であり、報道関係で凌ぎを削って来た彼は、
その諸々の体験を、エッセイ‐や小説などに昇華させてきたが、生意気な言い方だが、
唸るほどの出来栄えではなかった気がする。
小説に絞って言えば、嘘っぽくて空々しい感じがしたのである。
しかし、今回の小説は、秀逸であった。
正直、かれの中に潜んでいる底知れぬ力量を見せ付けられた気がした。
推敲に推敲を重ね、時間をかけて、じっくり練り上げた作品という印象を受けた。
男とか女とか友人とかそんな枠を乗り越えて、人の魂が人を呼び込むというような魅力を感じた作品であった。
語り口も彼本来の暖かさがあり、ユ‐モアがあり、筋立ても自然で、一気に読ませる面白さがあった。
尊敬に値する男だと思った。
■パキスタンの平カゴはまるでアフリカを思わせる大胆な柄と赤い土色が夏によく合う。
パン皿に、またプレーンな皿のトレーとしてテーブルへ、壁に掛けて眺めてみても、計算のない素朴さが心地よい。

小説の舞台は、高山の上二之町にあった肴横丁である。
登場人物は、彼の祖父である清一を取り巻く面々である。
芥川賞の選考委員を長年勤めた滝井孝作も重要な登場人物である。
筋書きは割愛するが、商いと文学を同じ俎上に置き、その価値観のようなものを、
どちらにも軍配を上げないで比較した作品であったような気がする。
翌日、彼をケイタイに呼び出し、素晴らしい作品だったと読後感を告げた。
すると彼は、登場人物は全て実名であり、清一の妻のお葉は、Kの祖父の妹だと告げた。
そして、絶世の美人であったことを付け加えた。
「えっ、本当、全て実名なの」
この小説が効を奏したのは、登場人物がすべて実名という辺りにポイントがある気がするのであるが、どうであろうか。
ちなみに、Kは、私の娘の夫である。
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Posted by 宣 at 17:11│Comments(0)
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